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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)10493号 判決

一 請求の原因1及び4の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、本件意匠の構成について検討する。

1 成立に争いのない甲第一、二号証、乙第一、二号証、第四号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三号証によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一) 本件意匠の登録出願前に公知となつた文献として、昭和四四年一一月七日に発行された特許公報(特公昭四四―二六七一八号)の実施例図面及び昭和四四年七月一一日に特許庁資料館に受け入れられた米国オフイシヤルガゼツト一九六九年六月三日号所載の登録番号第二一四三三二号の図面がある。

右各図面には、仕切板本体の両側辺及び底辺に翼片を設けたもので、縦翼片と横翼片とは連続しておらず隙間が存在している形状が示されている。

(二) 本件意匠の登録出願については、昭和五七年一二月二〇日付で前記オフイシヤルガゼツトを引用して拒絶理由通知が発せられたが、これに対して、出願人である原告は、意見書を提出して、次のように述べている。

即ち、本件意匠は、横長で略矩形の板体の両側面と底面とに断面弧状の翼片を同一幅で連続し、かつ両側面と底面との交差角を比較的大きな曲率の曲面を成形してある。また、両側面の上端部は全体の四分の一程切り落とした状態となつている。

これに対し、引用例は断面弧状の翼片が両側面にだけ成形され、底面のそれは両翼片より狭い幅の平坦な座片であり、かつ連続しておらず隙間が形成されている。そして両翼片の端部は板体の上端と同一高さになつているさらに翼片部の上部両角部は比較的大きな曲率で曲面が成形されている。

したがつて、本件意匠は、底部の形状及び底部と両側面との交差部、並びに両側面の上部において、引用例とは異なる特徴がある。

2 右1において認定した事実及び前示甲第二号証によれば本件意匠の構成は、次のとおりのものと解することができる。

(一) 横長矩形の仕切板の両縦辺と底辺に沿つて翼片が、同一幅で連続して形成されている。

(二) 両縦翼片は、仕切板の突出部位より低く形成されている。

(三) 両側面と底面の交差角は円周の約四分の一の割合で比較的大きい半径の曲面を構成している。

(四) 仕切板は両縦翼片の上端から上方に突出した突出部を有し、突出部の両端は両縦翼片より内側に寄り、かつ、上方内向に約五度程傾斜している。

(五) 翼片の断面は縦翼片、横翼片とも弧状を形成している。

三 被告製品を示すことにつき争いのない別紙目録(一)ないし(三)及び被告製品であることにつき争いのない検甲第四ないし六号証の各一によれば、被告意匠の構成は、次のとおりであることが認められる。

1 仕切板の両縦辺と底辺に沿つた翼片が、交角部の縦辺側に約五ミリメートル、底辺側に約一〇ミリメートルにわたつて、約二〇ミリメートルの横幅の両側から、約五ミリメートルずつ細く形成され、それ以外の部分は、両縦辺と底辺の全長にわたつて、約二〇ミリメートルの同一幅で形成されている。

2 両縦翼片は、仕切板の突出部位よりも約九ミリメートル低く形成されている。

3 翼片が仕切板の両縦辺と底辺とに連続して設けられ、交角部は円周の約四分の一の割合で比較的小さい半径の曲面を構成している。

4 仕切板の突出部位の両側は、両縦辺から内側位置に約二・五ミリメートル寄り、かつ上方上向に約五度傾斜させている。

5 翼片の断面は縦翼片、横翼片とも非常に緩やかな弧状を形成している。

四 本件意匠と被告意匠を対比すると、双方とも、仕切板の両縦辺と底辺に沿つて翼片が設けられている点、両縦翼片は、仕切板の突出部位よりも低く形成されている点及び仕切板の形状では共通点を有するが、反面本件意匠は、翼片が同一幅で連続して設けられているのに対して、被告意匠は、翼片が縦翼片と横翼片の交角部の縦辺側に約五ミリメートル、底辺側に約一〇ミリメートルにわたつて、約二〇ミリメートルの横幅の両側から、それぞれ約五ミリメートルずつ細く形成されている点が相違し、また本件意匠は、縦翼片と横翼片の交角部において、比較的大きい曲面を有する結果、丸い柔らかい印象を与えているのに対して、被告意匠は、右交角部において、比較的小さい曲面を有する結果、直角的な堅い印象を与えている点でも相違し、更に、本件意匠は、翼片の断面は縦翼片も横翼片とも、弧状を形成しているのに対して、被告意匠は、翼片の断面は縦翼片も横翼片とも、非常に緩やかな弧状を形成している結果、視覚的には殆ど直線的な印象を与えている点に相違がみられる。

右の共通点と相違点を比較し、全体的観察により、本件意匠と被告意匠をみてみると、前示のとおり、本件意匠は曲線が多用されて、全体として丸い柔らかい印象を与えるのに対して、被告意匠は全体的に直線的、平板な印象を与える点で両者は、意匠を異にするものといわなければならない。

したがつて、被告意匠が本件意匠に類似するということはできない。

五 よつて、被告意匠が本件意匠に類似することを前提とする原告の本訴請求は他の点を判断するまでもなく理由がないから、これを棄却する。

〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

一 請求の原因

1 原告は、次の意匠権(以下、「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)を有している。

出願日     昭和五六年五月一一日

登録日     昭和五八年一一月三〇日

登録番号    第六一九六八三号

意匠に係る物品 食品用蓋物の仕切具

登録意匠   別紙意匠公報記載のとおり

2 本件意匠は、食品用蓋物の仕切具の形状に係り、その構成は、次のとおりである。

(一) 横長形状の仕切板体の両縦辺と底辺とに沿う翼片が連続して形成され、前記両縦辺と底辺との交角部に曲面が形成されている。

(二) 仕切板体の上辺部が、全高のほぼ四・六分の一だけ両縦翼片の上端より突出ている。

(三) 前記仕切板体の突出部位の両側は、両翼片から多少内側位置に寄り、かつ上方内向きに傾斜している。

(四) 翼片は、仕切板体の両縦辺と底辺とに沿つて同一幅に成形されている。また、翼片の上端両側が円周の四分の一の割合で曲面が形成されている。

(五) 翼片の両縦辺と底辺との交角部の曲面は、円周の四分の一の割合で形成されている。

3 本件意匠の要部は、正面及び背面から見た形状である。即ち、

(一) 蓋の内面において、パツキン収容溝の内側壁を形成する突出縁が、箱体開溝内面に近接して無端に設けられていて、その先端部の接触を避けるために、両縦翼片の上端が、仕切板体の突出部位から八ミリメートル低くしてある。

(二)翼片が、仕切板体の両縦辺と、底辺とに連続して設けられていて、かつ、交角部において円周の四分の一の割合で曲面を形成し、その曲面の半径は一〇ミリメートルである。

(三) 高さ八ミリメートルの突出部位の両側は、両縦辺から、内側位置に三ミリメートルだけ寄り、かつ、上方内向きに約六度傾斜させている。

4 被告は別紙目録(一)ないし(三)記載の密封式の弁当箱用仕切具(以下、「被告製品」という。)を業として製造し販売している。

5 被告製品の意匠(以下、「被告意匠」という。)の構成は次のとおりである。

(一) 蓋の内面において、パツキン収容溝の内側壁を形成する突出縁が箱体の開溝内面に近接して無端に設けられていて、その先端部の接触を避けるために、両縦翼片の上端が、仕切板体の突出部位から九ミリメートル低くしてある。

(二) 翼片が、仕切板体の両縦辺と、底辺とに連続して設けられ、かつ、交角部円周の四分の一の割合で曲面を形成して、その曲面の半径は四ミリメートルである。

(三) 高さ九ミリメートルの突出部位の両側は、両縦辺から、内側位置に二・五ミリメートルだけ寄り、かつ、上方内向きに約五度傾斜させてある。

(四) 翼片は、交角部より縦辺側に五ミリメートル、底辺側に一〇ミリメートルにわたつて、二〇ミリメートルの横幅の両側から、五ミリメートルずつ切り落とされ翼片のそれ以外の部分は、両縦辺と底辺との全長にわたつて、二〇ミリメートルの同一幅で形成してある。

6 本件意匠と被告意匠とを対比すれば次のとおりである。

(一) 両意匠とも、両縦翼片の上端が仕切板体の突出部位から八ミリメートルないし九ミリメートル低くしてあり、両意匠の差は僅か一ミリメートルであるので、ほぼ同一といえる。

(二) 両意匠とも、仕切板体の両縦辺と底辺との交角部が円周の四分の一の割合で曲面を形成して、その曲面の半径に差異はあるものの、ほぼ同一である。

(三) 両意匠とも、仕切板体の突出部位の両側は、両縦辺から内側に寄り、かつ、上方上向きに傾斜させてある点でその長さや角度において僅かの相違はあるもののほぼ同一である。

(四) 被告意匠は、翼片が、交角部の縦辺側に五ミリメートル、底辺側に一〇ミリメートルにわたつて、五ミリメートルの切り落とし部分を有しているが、切り落とし部分の深さは僅かにすぎないこと、切り落とし角部は曲面を形成していること、切り落とし部分の長さは翼片部全体に比較して僅かであることからみて、全体的には、それほど顕著な特徴を有するものではない。

以上のとおり、被告意匠は、被告意匠と同一または類似し、かつ、被告製品は本件意匠に係る物品と同一であるから、被告が被告製品を業として製造、販売する行為は本件意匠権を侵害するものである。

7(一) 原告は本件意匠権を実施した製品を製造、販売している。

(二) 被告は、本件意匠権を侵害することを知りながら、もしくは過失によつて知らないで、被告製品を製造、販売したので、これにより原告の被つた損害を賠償する義務がある。

ところで、被告は、昭和五九年三月一日から昭和五九年六月末日までの間に、左記のとおり被告製品がセツトされた弁当箱合計二一万個を代金総額金一億七六九二万五〇〇〇円で販売した。

<省略>

したがつて、被告の得た利益は右販売合計の二〇パーセントに相当する三五三八万五〇〇〇円であるといえるから、原告は右と同額の損害を被つたものと推定される。

8 よつて、原告は、被告に対し、本件意匠権に基づき、前記損害金三五三八万五〇〇〇円の内金四〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五九年九月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 請求の原因に対する認否及び反論

1 認否

請求の原因1、4の事実は認め、その余の事実はいずれも否認する。

なお、同7(二)の事実中、損害額の主張は、本件意匠に係る物品が「食品用蓋物の仕切具」であるにも拘わらず弁当箱全体の販売額を基礎としている点で、根拠がない。

2 反論

(一) 本件意匠の要部は、公知意匠や本件意匠に係る登録出願の審査過程を参酌して、判断しなければならない。

ところで、本件意匠の意匠登録出願前の公知意匠としては、昭和四四年一一月七日に発行された特許公報(特公昭四四―二六七一八号)掲載の弁当箱用仕切板の形状及び昭和四四年七月一一日に特許庁資料館に受け入れられた米国オフイシヤルガゼツト一九六九年六月三日号の特許登録番号二一四三三二号の弁当箱仕切板の形状がある。

そして、原告は、本件意匠の登録出願の拒絶理由通知(後者の文献を引用例としている。)に対する意見書において、本件意匠の特徴は、

(1) 正面図において、横長で略矩形の板体の両側面と底面とに断面弧状の翼片を同一幅で連続していること。

(2) 両側面と底面との交差角を比較的大きな半径の曲面で成形してあること。

(3) 両側面の上端部は全体の四分の一程切り落としてあること。

ということができるが、これに対して、公知意匠の特徴は、

(1) 断面弧状の翼片が、両側面にだけ成形され、底面の翼形は両翼片より狭い幅の平坦な座片で、かつ、連続しておらず隙間が形成されていること。

(2) 側面の翼片と底面の翼片との交差は直角であること。

(3) 両翼片の上端部は板体の上端と同一高さとなつていること。

(4) さらに左右側面図において、翼片部の上部両隅部は比較的大きな曲率で曲面が成形されていること。

ということができる、と述べている。

(二) 以上の諸点に鑑みると、本件意匠の要部は、次のとおりであると判断すべきである。

(1) 横長矩形の仕切板の両縦辺と底辺に沿つて断面弧状の翼片が、幅二〇ミリメートルの同一幅で連続して形成されていること。

(2) 両側面と底面の交差角は半径一〇ミリメートルという大きい半径の曲面で形成されていること。

(3) 仕切板は両縦翼片の上端から上方に八ミリメートル突出した突出部を有し、突出部の両端は両縦翼片から三ミリメートル内側に寄り、かつ、上方内向きに約五度傾斜していること。

(三) 本件意匠と被告意匠との対比

(1) 本件意匠は、仕切板の両縦辺と底辺に沿つて断面弧状の翼片が幅二〇ミリメートルの同一幅で連続して設けられているが、その翼片の断面はどの部分をとつても弧状である。これに対して、被告意匠の翼片の外面は半径一〇〇・二五ミリメートルの曲面をなす弧状に形成されてはいるが、幅が二〇ミリメートルという狭さであることを考えると視覚的には殆ど平面の感じを与えて、弧状断面の意識を与えない。

(2) 被告製品は、縦翼片と横翼片の交差部において、縦方向に五・七ミリメートル、横方向に一一・七ミリメートルの切り込みがそれぞれ五ミリメートルの深さにわたつて施され、切り込み部分の横幅は翼片の半分の一〇ミリメートルとなり、この切り込み部分は側面図方向、平面図方向及び斜め上方のいずれからも看取でき、このため二〇ミリメートル幅に広がつた翼片部分が明瞭にアクセントとして把握されている。したがつて、被告意匠は、本件意匠と美観が大いに異なる。

(3) 本件意匠は、縦翼片と横翼片の交差角部において半径一〇ミリメートルという大きい曲面を有し、全体として丸い、軟らかい印象を与えている。これに対して、被告意匠は、右交差角部において、半径二・七ミリメートルの小さい曲面を有している。

以上のとおり、本件意匠と被告意匠とが非類似であることは、明らかであり、原告の請求は理由がない。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

意匠に係る物品 食品用蓋物の仕切用具

説明      本物品Aは食品用蓋物の容器体lに収容するもので、使用状態を示す参考図に示すように幅Wと角壁内面l1と底面l2との隔角曲面Rが合致すれば長さLと深さDが異なる容器体に使用できる。背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同一にあらわれる。

<省略>

目録(一)

<省略>

<省略>

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